業界共通試験(専門課程編)


生命保険会社にお勤めの場合、いわゆる『業界共通試験』を受験する機会も多いかと存じますが、筆者も諸事情により、一般課程試験および専門課程試験を再度、受験することとなりました。

30年くらい前に初受験して以来、伝統的な契約ルールは脈々と受け継がれていますが、その間、保険業界を取り巻く環境は激変し、改めてテキストを読み直すと、次々と新たな発見に出会えるのも結構心地よいものです。

そこで、今回のコラムでは、4月入社の新入職員向けに、専門課程試験で押さえておくべき“ツボ”をいくつかご紹介いたしましょう。

1.未払込保険料(延滞保険料)

アクチュアリーに限らず、保険会社で決算業務や算出方法書の作成業務に従事された方であれば、“未収保険料”という用語に馴染みがあると思います。
一方、復活の場合、“未払込保険料(延滞保険料)”という用語が登場するため、“未収保険料”と同じ用語と勘違いするかもしれません。
実際、両者は明確に使い分けがなされていて、テキスト通りの用語を選択しなければならず、例えば、正誤問題で、“復活処理の際、未収保険料を払い込む必要がある”というのは『誤り』となります。

ポイントは『誰目線か?』であり、未払込保険料(延滞保険料)は『お客様』目線、“未収保険料”は『保険会社』目線という違いがあります。
紛らわしい用語ほど、出題可能性が高くなりますので、しっかりと違いを認識しておきましょう。

2.広域連合

後期高齢者医療制度の運営主体は、都道府県単位で全市(区)町村が加入する広域連合となります。
国会等において、“後期”という用語が短い余命を表す不快用語では?との意見があったような記憶がありますが、テキストに載っているということは、今でも正式名称として使用されているのでしょう。

なお、総務省ホームページ(https://www.soumu.go.jp/kouiki/kouiki1.html)に、広域連合の設置状況(広域連合一覧)が掲載されていますので、余力があれば一読されるのもよいでしょう。

3.生命保険料控除

専門課程では数少ない計算問題の元ネタです。特に、平成24年1月から、新たに『介護医療保険料』区分の創設など、大幅な制度変更がありましたので、新旧の制度の違いも理解しておけば万全でしょう。
なお、控除額の上限について、所得税が10万円から12万円に引き上げられましたが、住民税は7万円のままですので、住民税に関する控除額の上限を84,000円(=28,000円×3)とする、いわゆる“ひっかけ問題”にも注意したいところです。

4.社会保険制度、公的扶助制度、社会扶助制度、社会福祉制度の違い?

保険会社勤務が長い人であっても、これらの4つの制度の違いを正確に記憶している人は多くないかもしれませんし、また、各制度に紐づいた給付内容も日常生活で頻繁に目にするため、余計に紛らわしく感じるかもしれません。

上記の4つの制度は、もちろん、専門課程テキスト(116ページ~)で紹介されているのですが、高校生が学習する『日本の社会保障の4つの柱』としては、“社会保険、公的扶助、社会福祉、公衆衛生”となっているようです。
https://kou.benesse.co.jp/nigate/social/a13s0405.html

5.障碍者の表示

いわゆる“不快用語撤廃”の一環として、昭和50年代に、約款で使用されていた「廃疾」という用語が「高度障害」という用語に代わりました。
 https://www.jili.or.jp/research/search/pdf/E_272_2.pdf

また、アクチュアリー試験の生保数理の教科書としても使用されていた『保険数学(守田常直著)下巻(財団法人 生命保険文化研究所)』の367ページにも“ハンター死亡廃疾混合表”が掲載されていますが、現在、死亡・就業不能脱退残存表とはやや異なり、各種の脱退率がメインの表になっています。
身体障害者という用語も、徐々に、身体障碍者という用語に変化しつつありますが、残念ながら専門課程テキストでは従前の表記となっています。

6.配当金の違い

生命保険募集人の基礎知識として、契約者配当(社員配当)がどのような要素によって違いがあるのかを問う問題が出題されます。
専門課程テキストでは、保険種類、性別、契約年齢、払込方法(回数)、経過年数、保険期間、保険金額などによって契約者配当(社員配当)に違いがあることが記されていますが、「生命保険会社の保険計理人の実務基準」における要素と比較すれば、アクチュアリー試験勉強にもつながるでしょう。

例えば、同基準第23条(アセット・シェアと代表契約の選定)における選定単位は以下の項目:
① 区分経理の商品区分
② 保険事故の種類
③ 契約経過年度
で最低限区分し、また、以下の項目でさらに細かく区分できることが規定されています。
① 基礎書類上の保険種類
② 販売経路
③ 危険選択手法
④ 性別
⑤ 契約年齢
⑥ 保険料払込方法
⑦ 保険金額
⑧ 保険期間

7.認可者

約款の作成・改正については、内閣総理大臣の認可を受けることになっていますが、“法務大臣の認可”という“ひっかけ問題”も出題される模様です。
なお、保険業法第313条で、内閣総理大臣が保険業法による権限(政令で定めるものを除く。)を金融庁長官に委任することとされておりますので、実務上の認可権限は同長官になります。

8.免責時に何を返す?

死亡保険金の免責事由に該当した場合、“保険料積立金”を契約者に払い戻すことが、専門課程テキストに記載されています。(54ページ)
一方、例えば、日本生命の契約基本約款:
https://www.nissay.co.jp/keiyaku/shiori/download/pdf/2016/10/ichiji/02.pdf
では、当該免責事由に該当した場合、“責任準備金”を払い戻すことが14ページに記載されています。

一般消費者からみれば、“保険料積立金”も“責任準備金”も大した違いはないように感じられるかもしれませんが、少なくともアクチュアリーであれば、
1)計算基礎率は保険料か責任準備金か?
2)未経過保険料や危険準備金は含まれるのか除くのか?
3)責任準備金は平準純保険料かチルメル式か?
などの疑問がすぐ浮かぶようになれれば一人前といえるでしょう。

9.猶予期間

保険料払込方法(回数)が月払とそれ以外(年払、半年払)とでは、猶予期間が異なるというのは超重要ポイントです。

万一、この点を誤解されると、猶予期間中の保険事故に対して、払う払わないといった裁判沙汰に繋がる恐れがあるためです。

一方、最近の約款では、保険料払込方法(回数)によらず、猶予期間を一律に定めているものも登場しているようです。

例えば、はなさく生命の『契約概要/注意喚起情報 ご契約のしおり・約款』:
https://www.life8739.co.jp/pdf/shiori/iryoshiori_new.pdf?1610094193
では、猶予期間は一律2か月となっている模様です。(6ページ)
さらに、『復活』もない模様ですので、専門課程テキストの内容とは、かなり相違している点にも注目されますね。

10.一社専属制

生命保険募集人に対する二重登録の防止(一社専属制)についても専門課程テキストに登場しますが、契約者保護を推進するために、一社専属制を採用するとの記述はみられるものの、何故、一社専属制が契約者保護につながるのか、明確な理由が示されていないように思えました。
業界共通試験テキストである以上、契約者保護につながる理由や考え方にも、是非触れて欲しいところです。

なお、生命保険文化センター資料:
https://www.jili.or.jp/research/search/pdf/C_87_6.pdf
にも、一社専属制に関する文献がありましたので、余力があれば、一読されることをおすすめします。

11.金融商品販売法と金融商品取引法

法律名が紛らわしいので、出題者からみれば格好の題材ですね。
頻出問題として、『適合性の原則は、どちらの法律に基づくものか?』というものがありますが、同原則は金融商品『販売法』に基づくものです。
“ハン(販)コを適合”と覚えれば、忘れにくいかもしれませんね。

12.50歳女性はあと50年生きる?

金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書に端を発する“老後2000万円問題”が話題となりましたが、この騒動のおかげで、かえって多くの金融機関は“追い風”となったのかもしれません:
https://www.chibabank.co.jp/blog/after-retirement-20million-yen.html

厚生労働省ホームページ:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000207430.html
によれば、『人生100年時代構想会議中間報告』からの引用として、

“ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より
長く生きると推計”

 という部分がありますので、2人に1人が人生100年に該当する模様です。

なお、アクチュアリーの観点からは、標準生命表2018では見直されなかった『生保標準生命表2007(年金開始後用)』において、50歳女性の平均余命が44年であることを勘案すると、専門課程テキスト“女性の50歳は、まだ50年の人生が残されている(176ページ)”と言い切るのは、保険を売るための話法と言われても仕方がないかもしれません。

もっとも、“2人に1人ががんに罹患”というキャッチフレーズも、がん保険の販売資料に必ずといっていいほど表示されていますので、生命保険の“ニーズ喚起”としては、慣れ親しんだ募集話法といえるかもしれません。
ただし、個人的には、“ニーズ喚起”よりも“注意喚起”に注力していただきたいと願うばかりですが。。。

いかがでしたか。テキストの〈はじめに〉の【留意事項】で、“計算器(電卓・ソロバン)”という表記が登場しますが、一瞬、“計算器”と“計算機”の違いは何かな?と考え込んでしまいそうになりました。試験には出題されないと思いますが、雑学としても大いに楽しめるテキストになっている点も、業界共通試験の魅力の1つかもしれませんね。

(ペンネーム:活用算方)

あわせて読みたい ―関連記事―