アクチュアリー試験講評(2020年度 生保数理 編)


2020年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。

合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。

早速、生保数理について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。

1.問題数
2019年度と同じ問題数で配点も同じでしたので、受験生にとって、特段大きな混乱はなかったと思われます。
昨年同様、2時間で8問、つまり15分1問のペースで解ければ、2時間で40点近く獲得できますので、残り1時間で20点弱という理想的な時間配分になるでしょう。

2.各問題のポイント
問題1(1)
解法:等差数列型と等比数列型の累加パターンである永久年金現価が等しいことから、等差数列の交差を求める問題です。公式に当てはめて等式を立てればよいでしょう。

問題1(2)
解法:常に正しい大小関係を選ぶ問題で、教科書の練習問題や過去問でも類題が出題されていますので、取り組みやすかったと思います。なお、例えば、選択し(A)の場合、変数xに対して、i=log(1+x)という関係式を思い出せば、xとlog(1+x)の大小比較となりますので、高校数学の範囲で解けますね。

問題1(3)
解法:問題文に、「原因Aおよび原因B」に関する情報(例.A脱退率の値など)がないため、一瞬、出題ミス?と感じられた受験生もいらっしゃったかもしれません。3重脱退残存表では、「原因C」からみて、「原因Aおよび原因B」は対称式で表示されますので、両者の和の値など対称性をもった状態で値が分かれば十分です。

問題1(4)
解法:全期チルメル式の問題では、圧倒的に、初年度定期式責任準備金の問題が多いのですが、(第1保険年度の)危険保険料を求める問題でした。過去問としては、例えば、平成18年問題1(6)が参考になるでしょう。

問題1(5)
解法:延長保険の問題ですが生存保険金額がありますので、「延長期間=変更前契約の残存期間」と考えればよいでしょう。なお、“延長保険の死亡保険金額については変更前の死亡保険金額から貸付金を差し引いた額に変更”という部分は、諸学者の方は、“変更時点で解約返戻金から貸付金を相殺しているため、二重取りでは?”と疑問に思われるかもしれませんが、教科書(下巻)38ページに記載された方法ですので、少なくとも、アクチュアリー試験としては全く問題ありません。

問題1(6)
解法:死力が与えられているので、生存率が計算され、したがって、死亡率も計算できます。条件付連生保険における「後死亡」の確率計算(例.教科書(下巻)95ページの公式を利用すればよいでしょう。なお、連生保険において、『複数の被保険者が同時に死亡率確率はゼロ』という点にも注意してください。それにしても、「高齢者が後に死亡する」のではなく、“50歳の男性が70歳の女性より後に死亡する確率”という“素朴”な設定が、今年の試験委員がいかに良心的なのかを表していますね。

問題2(1)
解法:死亡時年齢の平均は、教科書(上巻)76ページ(2.6.14)の公式として登場します。(←生存者の平均年齢の公式は教科書に登場しません。)本来、図示してこの公式を理解すれば、符号を含めて忘れにくいのですが、このコラムで図示するには余白が狭すぎます。(←Fermat風)

問題2(2)
解法:平成15年問題2(1)と全く同じ問題です。

問題2(3)
解法:Thieleの微分方程式に関する問題ですが、平成14年の初出以来、(責任準備金ではなく)純保険料を求める出題が多い点に注目ですね。なお、問題文にある「積の微分のヒント」を伴った出題は初めてだと思います。(←個人的には、藤田先生の“部分積分は負け”という公式が好きです。http://www.olis.or.jp/hfea/pdf/20130126forum_fujita.pdf)

問題2(4)
解法:平成26年問題3(1)と全く同じ問題です。古くは、平成4年(保険数学2)問題2(1)と全く同じ問題です。2つの計算基礎率に基づく責任準備金の再帰式を辺々引いた後の変形テクニックがポイントですね。

問題2(5)
解法:年金原資に(年金開始後の)予定事業費を含む設定でしたので、教科書(下巻)第7章練習問題(3)と同じ設定ですので、混乱することはなかったでしょう。ちなみに、平成27年問題2(4)では、“予定事業費を含まない”のが年金原資の定義になっていますので、この辺りは、問題文を注意深く読む必要があります。

問題2(6)
解法:問題文がやや分かりにくいかもしれません。実際、問題文の2行目に“保険期間25年に変更”とありますが、これは、もともと加入していた「30年満期」の保険の保険期間を5年間短縮することを意味するものであって、“変更時の年齢45歳から元の保険期間の満了年齢70歳までの25年ではない”ということです。このように理解しないと、『方法2』にある「保険期間20年」という部分が恰も誤植に見えてしまうかもしれません。

問題2(7)
解法:2018年問題1(6)では『生存者総数に占める就業不能者数の割合』という表現が問題文に登場するため、教科書(下巻)160ページ(13.1.27)の公式を用いるという流れをつかみやすいのですが、この問題ではあえて上記の表現をせず、記号Kxで当該割合を表しています。なお、統計的にはこの割合を観測することができるため、“就業不能者出現率”と呼称している保険会社もあると聞いたことがあります。特に、算出方法書等において、“就業不能者発生率”と“就業不能者出現率”が混在するような場合、経験の浅いアクチュアリーにとっては、まず、死亡・就業不能脱退残存表のモデルを理解するところからスタートしなければならないですね。

問題2(8)
解法:教科書(下巻)第14章からの出題ですが、手術にフォーカスした出題は珍しいように思えます。なお、予定利率と2種類の生命年金現価(定額型および累加型)が与えられているため、教科書(下巻)146ページ練習問題(3)の問題(1)の公式を思い出せた方は、計算がかなり省略できたことでしょう。

問題3(1)
解法:教科書(上巻)68ページ問題(16)の結果を暗記されていた方は解きやすかったでしょう。また、(ii)では、中央死亡率を表す記号を選ぶ必要がありますが、問題文に60.5歳の死力を求める部分が登場しますので、選択肢の中から、“x+1/2歳”が付いたものが正解候補、というアイデアが閃けば解答時間がかなり省略できますね。

問題3(2)
解法:典型的な親子連生保険の問題です。特に、問題文の(c)から、死亡給付の既払込保険料に払込免除の保険料が含まれるため、計算が格段にし易くなります。なお、免除分の保険料を含まない場合、かなり複雑になりますが、是非、教科書(下巻)117ページ問題(6)にチャレンジしてみてください。(←そもそも、同ページの問題(5)と問題文が非常に似ているため、“既払込保険料に払込免除の保険料を含むか否か”の判断が難しいので、最近の試験問題では、必ず、含むか否かを明確にしているものと思われます。

3.次回以降に向けて
いかがでしたか。今回の生保数理は、昨年以上に比較的オーソドックスな問題が多かったように思いますので、昨年よりも合格率は高いと予想されます。また、昨年のコラムにも記しましたが、過去問はもちろん、教科書の問題も一通りチェックしておくことが早期合格の秘訣の1つと言えるでしょう。

(ペンネーム:活用算方)

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