前回の記事(確定給付企業年金(DB)とは)で、
『「企業年金制度は、退職金制度が形を変えたもの」と思うとイメージしやすい』
と書きました。
実際、DBを新たに導入する場合は、
退職金制度の全部または一部をDBに移すことがほとんどです。
「退職金制度の全部をDBに移す」とは、
従業員が受け取る退職金は全てDBから支払われるということです。
「退職金制度の一部をDBに移す」とは、
従業員が受け取る退職金の一部はDBから支払われるけれども、
残りは企業から直接支払われるということです。
では、なぜ企業はDBを導入するのでしょうか。
今回は、退職金制度と比較した場合の
DBのメリットを解説していきたいと思います。
メリットは、企業目線のメリットと従業員目線のメリットがありますが、
従業員のメリットは、人材確保という側面を考えると間接的に企業のメリットにもなります。
どちらも様々なメリットがありますが、主なメリットとして以下の6点を挙げたいと思います。
①キャッシュアウトを平準化できる
②掛金は全額損金算入できる
③運用収益を見込むことができる
④受給権が確保される
⑤一時金と年金を選択できる
⑥他の企業年金制度の資金を持ち込むことができる
①~③が企業目線のメリット、④~⑥が従業員目線のメリットです。
1つずつ見ていきましょう。
メリット①:キャッシュアウトを平準化できる
前回の記事で、お金の流れについて、以下のように書きました。
まず、1つ目がお金の流れについてです。
退職金制度の場合は、企業から従業員に直接お金が支払われます。
従業員が退職する都度支払いが発生しますので、
退職者がいなければ支払いは発生しませんし、
退職者が多ければ多額の支払いが発生します。企業年金制度の場合は、企業から支払われたお金が
まず企業年金制度の積立金にプールされます。
そして、従業員が受け取るお金はそのプールされた積立金から支払われます。
企業から従業員に直接支払われることはありません。
支払は毎月定期的に積み立てられるため、退職者の数で支払額が変動することはありません。
(「確定給付企業年金(DB)とは」より引用)
このように、キャッシュアウト、つまり企業から出ていくお金が退職金制度とDBでは異なります。
退職金制度の場合は、年によってキャッシュアウトがバラバラです。
これは、企業にとっては実は結構嫌なことなのです。
当然、本業でも資金は必要ですが、退職金のせいで
「今年はたくさん資金があるけど来年はあまり資金がない」
といったことになりかねないのです。
さらに、企業にとって嫌なことは、このキャッシュアウトが予測しにくいところです。
定年退職者など、退職が事前にわかっている場合は、
キャッシュアウトもある程度予測ができるので、
企業側も準備しておくことが可能ですが、
何かのきっかけで、中途退職者が想定よりも多く発生すると、
想定以上に大量のキャッシュアウトが発生して、
本業の資金繰りが厳しくなってしまう可能性もあります。
事業を営む以上、キャッシュアウトは様々な場面で発生するわけですが、
企業側としては、なるべく予測できる方が都合が良いのです。
DBは、この課題を解決してくれます。
DBの場合は、毎月定期的に掛金を拠出して資金を積み立てておくため、キャッシュアウトは一定です。
どんなに想定外の退職が発生したとしても、キャッシュアウトに影響があることはありません。
DBの掛金が変動することもありますが、
基本的には半年から1年近く前に、どの程度の掛金が必要かはわかります。
逆に言うと、退職金を支払う必要のない時期からキャッシュアウトする必要が出てきますが、
退職金に関するキャッシュアウトの見通しが非常に良くなることがDBの大きなメリットの一つです。
メリット②:掛金は全額損金算入できる
DBに拠出する掛金は、全額損金算入することができます。
損金が増えればそれだけ法人税の所得金額を圧縮することができるため、法人税を抑えることができます。
もちろん、退職金制度でも従業員に支払った退職金は損金となりますが、
それを退職する前から前倒しで損金に算入できるイメージです。
(当然、退職時にDBから支払われる分は、損金の対象とはなりません。)
また、「全額」という部分もポイントです。
上限がないため、DBの規模が大きければ非常に大きな額を損金に算入することができます。
したがって、しばらく退職者があまり出ないような若い従業員が多い会社で、
毎年大きな利益が出ている企業にとっては、大きなメリットとなり得ます。
メリット③:運用収益を見込むことができる
DBに拠出した掛金は、ただ現金のまま積み立てておくわけではなく、
資産運用を行って運用収益を確保します。
運用収益がどの程度得られるのかは運用成績次第ですが、
運用収益を確保できた分だけ退職金制度よりもトータルで必要なお金は少なくなります。
(あくまで金額ベースですが。)
退職金制度では、一般的には資産運用は行いませんので、
運用収益分がDBのメリットとなります。
メリット④:受給権が確保される
従業員にとっての最も大きなメリットは、受給権が確保されることです。
もしDBを導入していない場合に企業が倒産してしまうと、
それまで働いた分の退職金をもらえる保障はありません。
大きく減額されたり場合によっては全く退職金が出ないこともあるでしょう。
一方、DBの積立金は、原則としてDBの給付に充てることしかできません。
つまり、例え企業が倒産し、多額の負債を抱えていたとしても、
DBの積立金を借金の返済に充てることはできず、全て従業員に分配されます。
DBを導入する企業は、従業員を大切にしている企業と言えるかもしれません。
メリット⑤:一時金と年金を選択できる
これは当然と言えば当然ですが、DBを導入すると、
従業員が退職した時に退職金を全額一括して受け取るか、それとも年金として受け取るか、
従業員が選択することが可能となります。
場合によっては、退職金の一部を一時金として受け取って、残りを年金として受け取ることも可能です。
個々の従業員によってライフスタイルは様々ですし、
一時金と年金で税制の仕組みも異なりますので、
選択肢が増えることは、従業員にとってメリットになります。
メリット⑥:他の企業年金制度の資金を持ち込むことができる
昨今は、日本でも人材の流動性が高くなってきており、
転職する人もどんどん増えてきています。
転職者にとっても、DBを導入しているとメリットになる場合があります。
転職前の企業がDBを導入していた場合、
通常であれば転職前のDBから退職金が支払われるわけですが、
転職先の企業もDBを導入していれば、
その退職金を従業員が受け取らず転職先のDBに持ち込むことができます。
そして、転職先の企業を退職する際に、合算して受け取ることができるのです。
なぜ退職金を受け取らずDBに持ち込んだ方が良いかというと、
転職時に退職金を受け取ってしまうと税制的に不利になる場合があるからです。
また、退職金を老後の生活資金として想定している場合は、退職金を受け取ってしまうと、
定年を迎えた際の退職金が減ってしまうため、自分で貯蓄しておく必要があります。
少しマニアックな話ではありますが、これも従業員にとってのメリットとなります。
以上、主な6つのメリットを解説しました。
DBの魅力が伝わりましたでしょうか。
今回は、メリットばかりご紹介しましたが、当然デメリットも存在します。
次回は、DBを導入するデメリットについて、解説したいと思います。