丁度1年前に、故・浅谷輝雄氏に関する思い出やエピソードをコラムにさせて頂きましたが、当該コラムの最後の部分で、生前、同氏にお聞きしたかった事項を思いつくままに列挙したままでした。
そこで、今回のコラムでは、生前、同氏から直接ご意見を拝聴できたものや、残念ながら拝聴できなかったものを含め、以下の3点に絞った上で、もし、今もご存命ならば、どのようなコメントを頂けただろうかと、20余年前の記憶を辿りつつ、記しておきたいと思います。
前回同様、文中の事実関係は筆者の記憶に基づくものですので、誤り等があれば筆者の責任であることを念のため添えます。
1.予定解約率
保険毎日新聞の「うず」という欄で、「歴史を19世紀に戻すのか?」というニュアンスのコラムを書かれた記憶があります。長年、主務官庁に在籍され、「純保行政」の名の下で保険会社の健全性や契約者保護に取り組んでこられた身としては、米国の「不没収価格法」のような最低保証的なものを強くイメージされておられたのかもしれません。
一方、低・無解約返戻金型商品については、既に、欧米等で導入されており、また、保険募集時に従来型の商品との比較説明や、低廉な保険料ニーズに応えるためにも、有効な商品であったものと思われます。
結果的に、保障性商品を中心に、ほぼ全社が導入したという事実を勘案すれば、同氏が危惧されたような“ネガティブ”な結果にはなっていないと思われます。
なお、100歳満期定期保険などの、いわゆる、超長期定期保険については、満期時に保険金額と同額の責任準備金を計上すべきである、という同氏のコメントも強く印象に残っています。超長期定期保険≒終身保険というお考えを持たれていたのかもしれません。
2.インターネット・チャネル
一度、第1回目の保険料を現金で収受すべきかを、同氏と議論したことがあるのですが、クレジットカード等のキャッシュレス化について、同氏は賛成のご様子でした。
お客様の利便性向上に加えて、「費消事故(=保険募集人等による営業保険料の横領等)」を防ぐ観点からも、キャッシュレス化は有効であるとのご認識だったのかもしれません。
残念ながら、インターネットによる保険販売の是非については、ご見解をお伺いすることができませんでしたが、少なくとも、お客様の利便性向上という観点からは、反対はされなかったのではないかと思われます。
ただし、非対面チャネルに求められる要件としては、
1)本人確認
2)意向確認
3)モラルリスク対策
4)コールセンター等によるサポート体制
等には、拘りを持っていらっしゃったのだろうと(勝手に)推測しています。
3.新型コロナウイルス
ご案内の通り、普通保険約款に明記されていない支払事由として、新型コロナウイルス感染症による死亡は災害死亡保険金(一部例外あり)として取り扱われていますが、“アクチュアリアル・マインド”に強い誇りを持たれた印象がありますので、ひょっとすると、基礎率変更権を導入し、営業保険料を引き上げた上で対処すべき問題とお考えになったかもしれません。
一方、契約者保護という観点からは、安全割増の範疇で支払いができれば良い、というお考えだったかもしれません。
同氏とお目にかかれたのが、丁度、“相沢発言(※)”があった時期ということもあり、「1.基礎率変更権⇒予定発生率の遡及適用」、「2.第二次大戦後のインフレ対応⇒予定事業費率の遡及適用」に続く3番目の措置として、「予定利率の遡及適用」を狙っていたように思えました。
※ https://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/15/doc1049.htm
銀行等と異なり、「決済機能がない」という観点から、保険業界には「公的資金」が注入されませんでしたが、結果的に、破綻処理において数多くの契約者の方々へ多大なるご迷惑をおかけしたことは、後世に語り継ぐ義務があるように思えます。
いかがでしたか。浅谷氏は、いわゆる『昭和50年答申(※※)』を策定されたことでも有名です。幸い、当時の資料が公開されていますが、恰も、21世紀の保険事業を見据えたような記述(例.通信販売等の販売チャネルの多様化、解約返戻金の在り方(←解約控除の縮小では限界))がある一方、“予定利率の引き上げ(←予定利息4%の時代に、1年国債利回りが10%!!)”という提言もあり、金融行政の難しさの片鱗が伺えます。
※※ https://www.mof.go.jp/pri////publication/policy_history/series/s49-63/10/10_2_3_01.pdf
(ペンネーム:活用算方)