―アクチュアリーを目指したきっかけを教えてください。
アクチュアリーという職種を知ったのは大学4年の終わり頃。数学科の学生向けの就職セミナーで、アクチュアリーの方が話をされていたんです。数学を使った仕事といえば、研究者か教育者しかないと思っていたので、「こんな仕事があるのか!」と興味を抱きました。数学科で主に勉強していたのは微分積分だったので、統計学というまったく新しい分野を学ぶのも面白そうだと思い、大学院1年生から、さっそく勉強を始めることに。1年目で2科目に合格し、「自分の強みを生かせる仕事だ」と、生命保険会社への就職を決めました。
―“生命保険”に興味を抱いた理由は何でしたか。
アクチュアリーが活躍している保険業界には、大きく分けて「生命保険」と「損害保険」があります。毎年料率が変えられる損害保険に比べ、生命保険は、ご契約いただく際に定められた保険料率が長期にわたって変わらないため、将来の不確実性が非常に大きいんです。保険金をお支払いするのが何十年後であっても、現時点で保険料を決めてしまいましょう、というのが生命保険。不確実性が大きい方が、商品設計や評価をする上でより複雑で、多角的な視点が必要となり面白いのではないかと思ったのが理由でしたね。
―社会人になってからの、仕事と勉強との両立方法を教えてください。
新卒入社後、配属された主計部では責任準備金やソルベンシーマージン比率の算出を主に担当していました。当時、週に2日は、日本アクチュアリー会が主催する勉強会など外部セミナーへの参加が認められていたので、勉強は比較的スムーズに進み、1年目で3科目合格し、アクチュアリー会の準会員になることができました。院生時代にコツコツと続けていた勉強が結果につながったのかもしれません。
その他、平日の勉強は、通勤時間片道1時間と朝早く出社して30分を確保するなど、スキマ時間を活用していました。夜は飲みに行きたいのでそっちを優先にして(笑)。遊びを我慢するとストレスになるので、メリハリをつけていましたね。
その後、社会人3年目にソニー生命保険に転職し、4年目、5年目に2次試験1科目ずつ合格し、2014年に正会員になりました。
―転職を決めた理由は何でしたか。
外部セミナーに通っていたとき、他社からもアクチュアリーを目指す若手社員が多く参加していました。そこでソニー生命保険の勉強仲間もたくさんできたのですが、彼らの仕事の進め方や働き方に、社内の風通しの良さを感じたんです。その後、縁あって入社し、現在はリスク管理の仕事に携わっています。社内の意見交換の活発さや異なる意見を受け入れながら吸収して、より良いアウトプットを出していこうという社風は、転職前から持っていたイメージ通りで働きやすいなと感じています。これは、中途入社者が多く、職種間の距離が近いからかもしれません。
―現在の仕事内容とその面白さを教えてください。
リスク管理として、新商品を出す際の保険料の妥当性や、販売後の動向分析を担当。会社の経営分析のために将来のキャッシュフロー予測を出す時は、その前提条件である死亡率予測や解約率予測などの作成を行います。保険種類やその契約者数が多ければ多いほど計算に時間がかかるので、最近ではその効率化のためのプログラミングも勉強しています。
不確実性の高い生命保険商品には、「正解」がありません。何が妥当なのか、考えに考え抜いて試行錯誤を重ね、今自分が出せる「最適解」を提案していく。苦しさもありますが、考え抜く過程こそがアクチュアリーの面白さなんだと思います。また、当社は他社に先駆けてMCEVを開示するなど、最新の技術や考え方を取り入れようとする社風があり、日々刺激を受けられる環境はアクチュアリーにとって魅力的だと思っています。
―アクチュアリーに必要なものはなんだと思いますか。
会社数値の算出も大事ですが、出てきた数字を他部署の人や上司、役員にどう説明していくか、そのプレゼンテーション力こそ大切だと日々痛感しているので、「人に説明する力」は必ず求められると思います。また、数学だけではなく、保険業法を学んだり、金融工学や、プログラミングについて勉強したりと、さまざまな知識をつけるべく新しいことに興味を持って取り組む好奇心も大事だと思います。
さらに近年は、アクチュアリー出身の経営者も増えています。アクチュアリーが経営に参加することは今後ますます増えると思うので、ただ計算するだけではなく、数字が示す事実や背景を深く理解した上で経営への助言ができるような力も必要だと感じますね。
プロフィール
鶴田正毅さん
ソニー生命保険株式会社 ALM部 保険リスク管理課 主任。アクチュアリー会正会員。数学科卒業。生命保険会社で法定決算に携わったのち、社会人3年目でソニー生命保険株式会社に中途入社。