アクチュアリー試験のうち第2次試験(専門科目)では、毎年、計算問題が出題される傾向にあります。実際、2019年度の生保コースでは、生保1で団体生命保険の配当率(問題1(3))が、また、生保2では、ソルベンシー・マージン比率(問題1(4))がそれぞれ出題されています。
特に、生保1では、2年連続で団体生命保険に関する計算問題(2018年度問題1(6):優良団体割引制度の割引率から団体の被保険者数を求める)が出題されましたので、計算問題に対する“ヤマ”が当たった受験生は多くなかったかもしれません。
そこで、今回のコラムでは、2020年度の生保2での出題が予想される、損益計算書・基礎利益・利源分析について、『為替差損益』および『貸付金償却』を中心に、平成26年度(生保2)問題1(5) を解説いたしましょう。
1.問題の概要
損益計算書等の数値を用いて、各利源の損益、基礎利益、キャピタル損益および臨時損益を計算する問題です。
なお、解答欄には、「費差損益」「死差損益」「利差損益」「責任準備金関係損益」「解約・失効益」「価格変動損益」「その他の損益」および「基礎利益」「キャピタル損益」「臨時損益」の10項目が設定されています。
特に、経常費用の資産運用費用として、『為替差損』および『貸付金償却』が計上されていますので、これらをどう処理するかが合否の分かれ目かもしれません。
2.利源分析での注意点(その1)
まず、注意すべきことは、解答欄で与えられた利源(上述の「費差損益」~「その他の損益」)の数と、教科書の利源の数が一致しないという点です。
実際、教科書『保険2(生命保険)第1章 生命保険会計』では、「解約・失効益」が「責任準備金関係損益」の内訳となるため、利源は6つ(「費差損益」「死差損益」「利差損益」「責任準備金関係損益(解約・失効益を含む)」「価格変動損益」「その他の損益」)となり、7つ目の「剰余金」が記載されています。
しかし、本問の場合、「解約・失効益」が「責任準備金関係損益」から分離されているため、利源は7つになっています。
3.利源分析での注意点(その2)
次に、注意すべきことは、各利源の合計が何に一致するかという点です。
実際、教科書1‐136ページ下から6行目付近には、
・「剰余金」は上記6つの利源の単純合計である
・「剰余金」は
相互会社の場合:貸借対照表の当期未処分剰余金、
株式会社の場合:繰越利益剰余金及び契約者配当準備金繰入額の合計
に一致することが記載されています。
特に、初学者の方は、『利源分析=利益源泉を明らかにする』というイメージを強く持ってしまい、利源分析とは、(貸借対照表ではなく)損益計算書の末尾を各利源に分解するものだと理解しているかもしれません。
ちなみに、損益計算書の末尾は、
・相互会社の場合:当期純剰余(又は当期純損失)
・株式会社の場合:当期純利益(又は当期純損失)
であり(※)、本問の場合、そもそも貸借対照表が与えられておらず、損益計算書の末尾(当期純剰余350)に上記の7つの利源の合計値が一致する形になっています。
したがって、例えば、問題文で貸借対照表(特に、当期未処分剰余金)も与えて、利源分析を行うような出題がなされた場合には、
・相互会社の場合:当期未処分剰余金、
・株式会社の場合:貸借対照表の繰越利益剰余金及び損益計算書の契約者配当準備金繰入額の合計
という形で解答する必要がありますので、受験生の皆さまは混乱しないようにしましょう。
※ 保険会社の財務諸表の様式は、金融庁ホームページ
(https://www.fsa.go.jp/common/shinsei/hoken.html)
にある『別紙様式第7号(第17条の5、第25条の2及び第59条関係)』
(https://www.fsa.go.jp/common/shinsei/shinseiyoushiki/hoken-kisoku07.rtf)
をご覧ください。(←教科書『保険2(生命保険)第6章 ソルベンシー』6‐23ページでは『別紙様式第12号』となっていますので、様式番号等が改正された可能性があります。)
4.利源分析での注意点(その3)
さらに、注意すべきことは、利源のうち『利差損益』に『為替差損』および『貸付金償却』が共に含まれるという点です。
実際、教科書1‐132ページにある『利差損益』の表に両者とも含まれています。
5.基礎利益での注意点
基礎利益が開示された2000年度決算(2001年3月末)では、当時既に、『逆ざや』が公表されていたこともあり、『基礎利益=3利源合計』、『逆ざや=利差損』というような、ある種不正確な情報が新聞雑誌等で広められた記憶があります。
その後、いわゆる『不払い問題』への対応策の1つとして、2005年度決算(2006年3月末)で『3利源』が公表(※)されたため、初学者の方は、『基礎利益=3利源合計=死差損益+利差損益+費差損益』というイメージを強く持ってしまい、特に、利差損益に含まれる『為替差損』および『貸付金償却』が、基礎利益に含まれると『誤解』してしまう可能性があります。
※ https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2005/pdf/20060331.pdf
※ https://www.komazawa-u.ac.jp/~ishikawa/ca31.pdf
6.キャピタル損益での注意点
『為替差損』はキャピタル損益に含まれます。為替レートの変動で、外貨建て有価証券等の価格が変動することを勘案すれば、『利差損益』よりも『キャピタル損益』に計上する方が自然なのかもしれません。
あるいは、『為替変動』という、保険会社にとって制御することが難しい項目のために、本業の利益である『基礎利益』が影響を受けることが指標として馴染まないという考え方なのかもしれません。
7.臨時損益での注意点
『貸付金償却』は臨時損益に含まれます。貸付金から生じる『貸付金利息』は『利息及び配当金等収入』として『利差損益』に計上されるため、貸し倒れ等で利息が回収できない『貸付金償却』を『利差損益』に計上することでバランスを確保しているようにもみえます。
しかし、通常、貸付金の実行では事前に相手先の信用度等を入念にチェックしますので、いわゆる『焦げ付き』は頻繁には生じないであろう、という考え方で臨時損益に計上しているのかもしれません。
※ キャピタル損益および臨時損益の内訳は、例えば、『生命保険会社のディスクロージャー資料虎の巻(生命保険協会)』8ページをご覧ください。
https://www.seiho.or.jp/data/publication/tora/pdf/tora_all.pdf
いかがでしたか。決算部門や商品開発部門など、アクチュアリーが活躍する主な部署では、長年の経験等により醸成されてきた実務上の不可欠な『勘所』が存在するように思えます。
今回ご紹介した内容は、単に、アクチュアリー試験を突破するという意味だけではなく、常日頃からアクチュアリーに求められる専門職としての職務を全うするために、どのような(勘定)科目を組み合わせて、どのような指標を作成・開示すれば、保険会社の健全性はもちろんのこと、契約者保護や消費者からの信頼確保が達成できるのか、という極めて重要な『情報開示の在り方』に対して、アクチュアリーとして積極的に関与すべきという試験委員からの貴重なメッセージのようにも思えます。
(ペンネーム:活用算方)