2019年度のアクチュアリー試験の公式解答が、2020年3月30日(月)に日本アクチュアリー会ホームページ(書籍・ライブラリー > 資格試験過去問題集)で公開されました。
筆者が新入社員の頃は、試験翌年の夏ごろに公式解答が会報別冊として公開されていた記憶があるのですが、最近では、人事異動等により試験委員が交代しないうちに公式解答を公表しようとする配慮から、試験本番と同じ年度内に公式解答を公開するスケジュールになっているのかもしれません。
受験生にとっては、公式解答を少しでも早く閲覧できることで、試験対策が立てやすくなりますので、現在のスケジュールに感謝したいですね。
そこで、今回のコラムでは、生保数理のうち表記責任準備金の考え方(特に、加入時の値)について、生保数理の教科書(以下、「教科書」という。)の記載内容と比較しながら理解する上で幾つかの重要なポイントをご紹介したいと思います。
1.責任準備金の定義
教科書(上巻)173ページ下から9行目に、『保険期間の途中で会社が所有しているべき理論的な金額』が責任準備金の定義として記載されており、また、保険業法第116条第1項では『保険契約に基づく将来における債務の履行に備えるため、責任準備金を積み立てなければならない。』となっています。
両者とも、保険料払込方法が一時払かどうかには依らず、画一的な定義となっている点が注目されますね。
2.責任準備金の計算に当たっての前提
教科書(上巻)173~174ページにかけて、責任準備金の計算に当たっての3つの前提が以下のとおり列挙されています。
① 責任準備金の利殖や保険金等の支払は、純保険料を計算した際の予定利率および予定死亡率のとおりに実現するとする。
② 責任準備金を計算する時点での契約者への支払については、死亡保険金等の死亡に関するものは支払われたものと考え、一方生存給付金等の生存者に対するものはまだ支払われていない状態にあるとして、計算を行う。
③ その時点で収入すべき保険料があれば、それは収入されていない状態で計算を行う。(生存給付金等の支払および保険料の収入は責任準備金計算の時点直後に行われると考える。)
特に、3つ目の『その時点で収入すべき保険料があれば、それは収入されていない状態で計算』という点は、保険料払込が一時払の場合に、解釈が分かれる余地のある前提といえるかもしれません。
3.一時払養老保険のt年経過後の責任準備金
教科書(上巻)175ページ(5.2.2)より、一時払養老保険において、
『t年経過後の責任準備金 = x+t歳加入、n-t年満期の養老保険の一時払純保険料』
となります。なお、経過年数t年のtについては、その定義域(例.0≦t≦nなど)が教科書に明記されずに、単に『t年後』という表現が登場しますので、t=0の場合を含むという解釈が成り立つかもしれません。
しかし、この解釈を是とすれば、上述の『2.責任準備金の計算に当たっての前提』の③との整合性が気になるところです。
もっとも、保険料払込が一時払の場合には、保険加入と同時に営業保険料全額が払い込まれるため、『その時点(=加入時点)で収入すべき保険料は(もはや)ない』という解釈が成り立つかもしれません。
4.2019年度『生保数理』問題2(5)の公式解答
昨年の生保数理の問題2(5)では、保険料払込が一時払の保険でファクラーの再帰式(=責任準備金の再帰式)を用いて営業保険料を求める問題となっていますが、解答の過程で、0_V = P×(1-α) という等式が登場します。(ここで、0_Vとは、この保険の加入時の責任準備金を表します。また、αは営業保険料比例の予定新契約費です。)
したがって、本問の場合、0_Vは(ゼロとは異なり)一時払純保険料に等しくなっています。
5.保険料払込方法が一時払以外への解釈
上記の問題と同じ年度である、2019年度『生保数理』問題3(2)(b)では、問題文の条件の1つとして、『0_V = 0』という等式が登場します。この問題は保険料年払ですので、保険料払込方法が一時払以外では、『0_V = 0』となるという理解で良いかもしれません。
6.Thiele(ティーレ)の微分方程式への解釈
以前の投稿『2019年05月13日 (月) Thiele(ティーレ)の微分方程式』にてコメントしました通り、Thiele(ティーレ)の微分方程式を用いた一時払保険料の計算における最大のポイント(テクニック)は、微分方程式の境界条件(初期値)の1つである『加入時の責任準備金=一時払純保険料』という部分です。
今回ご紹介した公式解答によれば、この境界条件が正しい、つまり、Thiele(ティーレ)の微分方程式のような『保険金連続払』でなくとも、保険料払込が一時払であれば、『0_V = 一時払純保険料』が成り立つことがお分かりいただけると思います。
いかがでしたか。日本アクチュアリー会の資格試験要領では、『第1次試験(基礎科目)の出題範囲を教科書に限定する』ことが明記されていますが、上述の平成14年度のThiele(ティーレ)の微分方程式を用いて保険料を求める問題は、教科書(練習問題を含む)に登場していません。(もちろん、教科書の内容を理解すれば保険料を求めるロジックは十分理解されますが。)
今回ご紹介しました責任準備金(保険料積立金)の考え方も、実務面も含めて、生保数理においては基本的な考え方となりますので、第2次試験(専門科目)や実務面への応用等も睨みながら、研究会員のうちから多角的な視野で物事を理解していきたいですね。
(ペンネーム:活用算方)