【2019年(令和元年)の公的年金財政検証のオプション試算について(1)】


今回は、令和元年財政検証のオプション試算のうち、オプションAについて、詳しく見ていきたいと思います。

オプションAでは、「被用者保険のさらなる適用拡大」をする、つまり、働いているけど厚生年金の対象となっていなかった方を、厚生年金の対象にすることで、公的年金の財政を改善しよう、という目的のための試算です。

試算としては、以下の3パターンを試算しており、結果としてそれぞれ、所得代替率が向上する、という結果が試算されています。

オプション試算A①
被用者保険の適用対象となる企業規模要件を廃止した場合:125万人拡大ベース
⇒所得代替率 +0.4%~+0.5%
オプション試算A②
被用者保険の提供対象となる賃金要件、企業規模要件を廃止した場合:325万人拡大ベース
⇒所得代替率 +0.8%~+1.1%
オプション試算A③
一定以上の収入のある全雇用者を適用:1050万人拡大ベース
⇒所得代替率 +4.3%~+4.5%

厚生年金のフルタイムの方は、普通に厚生年金の被保険者ですよね。ですが、短時間労働者が厚生年金の対象になるには、以下の5要件があります。
 企業規模が501名以上の企業
 所定労働時間週20時間以上
 勤務期間が1年以上であると見込まれること
 月額報酬が8.8万円以上(年収106万円)
 学生ではない

2017年4月から、一部改正されて、下記の加わることになっています。
・国地方公共団体については500名以下の企業の短時間労働者も適用
・民間企業で500名以下の企業も、労使合意の上、厚生年金の対象者に適用拡大が可能

オプション試算A①の企業規模要件の撤廃とは、上記501名以上の企業、という条件を撤廃するので、30名の企業でも50名の企業規模によらず全ての企業を対象にする場合の試算、ということです。

オプション試算A試算②の賃金要件も撤廃、とは、月額報酬が8.8万円以上(年収106万円)という要件も撤廃するとどうなるか、という試算ということです。

最後のオプション試算A試算③は、上記の5要件を撤廃し、賃金報酬月額5.8万円以上の短時間労働者は全て適用対象、とした場合の試算となります。つまりこの場合、学生も、1年未満の雇用者も、適用拡大の対象ということで、最も拡大対象者が多い試算になっています。

いずれの試算も所得代替率の向上に効果があり、しかも、拡大すればするほど、所得代替率が向上する、という結果になっています。

さらに先ほどの図にもある通り、被用者保険の対象拡大は、特に基礎年金部分の所得代替率向上に大きく寄与するというのが、大きなポイントです。

これは、第1号被保険者・第3号被保険者から、第2号被保険者に移ることになるものの積立金自体が、基礎年金から報酬比例の厚生年金に移るわけではないため、第1号被保険者1名あたりの基礎年金の積立金が増加し、その効果により、基礎年金の給付水準が大幅に改善します。
逆に、基礎年金の給付水準が上昇することにより、厚生年金の報酬比例部分に充てられる財源が減ることにより給付水準は悪化するのですが、今度は第1号被保険者・第3号被保険者の流入によって報酬比例部分の保険料収入が増加することとなるため、報酬比例部分の所得代替率は横ばいもしくは微減、ということになります。

社会保障審議会の図がわかりやすいので掲載しますね。

理屈の部分は、基礎年金財政・厚生年金財政の仕組みまで理解していないとわかりにくいので、またどこかで解説しますが、とりあえず今日のポイントとしては、被用者年金の対象拡大を進めることで、基礎年金の所得代替率の改善の効果があると、覚えておきましょう。

基礎年金の給付水準は、年金の防貧機能に関わる問題で、あまりに給付水準が低いとこの防貧機能が低下してしまうことを意味し、社会的には高齢者の貧困対策をまた別なもので埋めて行かなければならない、ということにもつながります。

この被用者保険の適用拡大は、労働者側には一方的にメリットだけがあるわけですが、反対に、雇用主側の負担は増加します。
それは、厚生年金保険料は雇用主と折半なので当然といえば当然ですね。

このオプション試算Aの結果を受けて、社会保障審議会ではどこまで、どう適用拡大をするのかを議論してきました。

また、実際の雇用主側の声も十分に取り入れたうえで配慮してどう進めていくかについて、一方的に国だけで決めるわけでなく、「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」といった労働者側団体も参加するワーキンググループで議論を進めて結論を出してきています。

社会保障審議会年金部会の議論のまとめはこちらです。
https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/000581907.pdf

適用拡大の具体的な方向性としては、

・2024(令和6)年10 月に50 人超規模の企業まで適用することとし、その施行までの間にも、できるだけ多くの労働者の保障を充実させるため、2022(令和4)年10 月に100 人超規模の企業までは適用することを基本とする。

・短時間労働者への適用要件の中でも、1年以上の勤務期間要件は、できるだけ適用要件は少なくする方が望ましいとの観点や、実務上の取扱いの現状も踏まえて撤廃し、本則に規定されているフルタイム相当の被保険者と同様の2か月超の要件が適用されるようにする。

・労働時間要件については、まずは週20 時間以上の労働者への適用を優先するため、現状維持とする。月額賃金8.8 万円の賃金要件は、最低賃金の水準との関係も踏まえて、現状維持とする。

・5人以上の個人事業所のうち、弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業については事務処理等の面からの支障はないと考えられ、さらに他の業種と比べても法人割合が著しく低いこと、法人化に際して制度上の制約があることなどから、適用業種に追加すべきである。

といったまとめがされているため、法改正ではこのあたりを踏まえた法案が提出される予定となります。

次回は、財政検証オプション試算Bについて説明したいと思います。

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