2019年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。
合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。
早速、生保1について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。
なお、時間の関係で、具体的な解法に触れることができない点を、何卒ご容赦ください。
1.問題数など
問題内での配点が多少異なりましたが、問題ごとの配点および問題数は昨年度と同じでしたので、受験生にとって、特段大きな混乱はなかったと思われます。
また、昨年度からのトピックであった、
・生保標準生命表2018の導入
・教科書 第4章 生命保険の商品開発 の導入
のうち、第三分野標準生命表2018の作成過程が出題されましたので、事前準備をしっかり行った受験生にとっては、取り組みやすかったのではと考えられます。
また、教科書 第4章 生命保険の商品開発 の導入については、問題3(1)②で、解答にあたっては、『保険収支の不確実性の制御を踏まえた商品設計上の工夫や方策』を触れることが求められていますので、教科書4-3ページから4-5ページに列挙されている7つの項目を暗記しておいた受験生にとっては、やはり、取り組みやすかったのではと考えられます。
2.各問題のポイント
問題1(1)
解法:第三分野標準生命表2018の作成過程に関する穴埋め問題です。昨年は生保標準生命表2018(死亡保険用)が出題されましたので、予想された受験生も多かったものと思われます。なお、日本アクチュアリー会から公表されている『標準生命表2018の作成過程』37ページの欄外にある『※第三分野標準生命表2018は高度障害を含まない死亡率である。(第三分野標準生命表2007は高度障害を含む死亡率である。』からも出題されていますので、本文だけではなく、欄外注記も熟読されることをおススメします。
問題1(2)
解法:『保険会社向けの総合的な監督指針』からの出題です。昨年は、Ⅱ-2-5-2(5)からの出題でしたので、その直前からの出題でした。なお、⑤で『募集面』を敢えて穴埋めにしたのは、昨今の不適切募集を考慮した時事ネタとも考えられます。アクチュアリーとして、保険募集人の給与規程への関与はもちろん、保険会社の従業員として、加入の最前線である『募集』についても、積極的に関心を持つべし、という試験委員からの貴重なメッセージかもしれません。
問題1(3)
解法:団体生命保険の配当率に関する穴埋め問題です。過去問では、平成15年度問題1(2)および平成17年度問題2(3)で出題されていますが、内容的には、後者の問題に近いものです。なお、問題文で『剰余金に対する費用』という表現が登場しますが、団体保険の実務経験がない受験生にとっては分かりにくい概念かもしれません。平成17年度問題2(3)では、『群団全体の死差益(純保険料から支払保険金を控除した額)のうち、割合αを保険金杜は留保』とありますので、この割合αに相当するものが『剰余金に対する費用』です。また、昨年は団体保険の被保険者数に関する計算問題が出題(2018年度問題1(6))されましたので、2年連続で団体保険の計算問題が出題されることは、受験生の多くは予想していなかったものと思われます。
問題1(4)
解法:α-β-γ体系の問題点を3つ列挙する問題で、教科書1-21~22ページからの出題です。過去問では、平成13年度問題1(4)および平成20年度問題4(1)で出題されていますが、『問題点』を列挙するという意味では、後者の問題に近いかもしれません。なお、問題文で3つ列挙せよ、とありますので、3つ書かないと0点となる可能性もありますので、教科書を暗記することはもちろんのこと、問題文の指示通りに解答することも重要です。
問題1(5)
解法:アセット・シェア計算における「代表契約方式」を説明する問題で、教科書3-5~6ページからの出題す。過去問では、平成19年度問題1(4)および平成27年度問題1(2)で出題されていますが、(穴埋めではなく)用語説明という意味では、前者の問題に近いかもしれません。なお、教科書では、生命保険会社の保険計理人の実務基準で採用されていることが触れられていますので、教科書通りに、実務基準についても触れておくのがよいでしょう。
問題1(6)
解法:変額年金保険の最低保証リスクにおける経済価値ヘッジのうち、Deltaヘッジを説明する問題で、教科書5-30ページからの出題です。Deltaヘッジに特化した過去問はないようですが、教科書には『弱点』という語句が登場しますので、仮に、変額年金保険の実務経験がなくても、教科書を暗記しておけば解答できると思われます。
問題2(1)
解法:MVA(市場価格調整)に関する問題です。過去問では、平成25年度問題2(1)で出題されていますが、算式を記述しなければならないため、難易度は上がっていると思われます。なお、②では、i2などの留意点を列挙することが求められていますので、教科書の留意点を漏れなく記述する必要があるでしょう。
問題2(2)
解法:共同保険式再保険に関する問題で、教科書18-24ページからの出題す。過去問では、平成20年度問題1(1)および平成23年度問題2(1)で出題されています。「修正共同保険式再保険」および「資産留保型修正共同保険式再保険」についても説明しなければならないため、共同保険式再保険が活用されない理由と併せてこれらの特徴等も理解する必要があるため、再保険の実務経験が乏しい受験生にとっては難しい問題だったと思われます。
問題3(1)
解法:公的介護保険の導入から20年近くが経過しましたが、支払事由の分かり易さという、一種の保険契約者保護の観点からも、支払事由が公的制度に連動するタイプの保険商品が多数販売されています。このため、当該商品を取り扱っている会社にお勤めの方、特に、当該商品の開発経験がある方にとっては、かなり取り組みやすい問題であったと思われます。なお、問題文を細かく見ると、
・平準払
・(介護)終身年金
・要介護認定後の要介護状態によらず終身にわたり年金を支払う
・保険料払込期間中の死亡給付金は年金年額と同額
・年金開始前、開始後の予定基礎率は契約時に決定
といった条件が設定されていますので、これらの条件を漏らさないように、一つずつ丁寧に解答することが求められるでしょう。なお、平成7年度の公式解答によれば、試験委員が最も重視する項目は『政策判断にかかる事項』のようですので、この点を中心にした解答が望ましいでしょう。
問題3(2)
解法:新しいタイプの出題形式です。暗黙のルールとして、解答用紙3枚以下が20点、解答用紙4枚が25点以上という配点ですので、①~④のうち3つを選択するという、第Ⅱ部の問題としては、久々の問題を選べるタイプです。なお、受験生の知識や経験によっては、①や②だけで3枚書けるという方もいらっしゃるかもしれませんが、逆に、①~④のそれぞれについて解答用紙1枚以内に収めなければならない、という点も難しいかもしれません。
なお、『会社に及ぼす影響』⇒『商品開発上の対応策』⇒『留意点』⇒『所見』という流れが問題文で与えられていますので、2つ目と3つ目の項目を中心に解答すれば良いと思います。また、具体的な保険商品は与えられていませんので、例えば、『②死亡率の低下』で最も影響を受ける商品(例.終身年金保険など)をそれぞれ年頭に置いた上で解答するように、ある程度、対象商品を絞り込んだ方が書きやすいかもしれません。問題3(1)で触れた通り、試験委員の目線は『政策判断にかかる事項』のようですので、上記の『対応策』や『留意点』に『政策判断』が多く含まれていると良いでしょう。
3.次回以降に向けて
いかがでしたか。今回の『生保1』では、問題3(2)の出題形式が新しいタイプと言えるでしょう。一見すると、従来の『問題2』で出題されるような形式にも見えますが、例えば、『インシュアテックの台頭(自分の将来の健康状態等を予測)』や『未婚率(晩婚率』など、昨今の国内事情を勘案した問題になっていますので、柔軟な思考回路で簡潔にポイントをまとめる力が引き続き求められていると思われます。
第2次試験では出題範囲が教科書に限定されていませんので、日ごろから『アンテナ』を意識的に広げるようにしながら、金融庁などのホームページにも注意し、幅広い視野を身に着ける習慣を付けるようにするのが効果的と思われます。(ペンネーム:活用算方)