アクチュアリー試験講評(2019年度 生保数理 編)


2019年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。

合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。

早速、生保数理について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。

なお、時間の関係で、具体的な解法に触れることができない点を、何卒ご容赦ください。

1.問題数

2018年度(注:昨年から西暦表示)と同じ問題数で、配点も同じですが、しかし、例えば、問題1(1)および(2)では、1つの問題で2つの答を求める問題でしたので、計算量は昨年よりも増えたように思えます。

昨年同様、2時間で8問、つまり15分1問のペースで解ければ、2時間で40点近く獲得できますので、残り1時間で20点弱という理想的な時間配分になるでしょう。

2.各問題のポイント

問題1(1)

解法:平成17年度問題1(6)の類題です。特に、(E)において『実質的な借入金利率』をどのように捉えるかがポイントです。

問題1(2)

解法:生存確率から死力に登場する定数aを求めて、完全平均余命も求める問題です。

なお、完全平均余命には2通りの表示(教科書(上巻)60ページ(2.5.3)および教科書(上巻)61ページ(2.5.5))がありますが、本問の場合、\(_tP_x\)が具体的に求まりますので、教科書(上巻)61ページ(2.5.5)を用いた方が早いかもしれません。

問題1(3)

解法:一時払終身保険の純保険料および予定利率から生存確率を求める問題です。特に、『隣接二項間の公式』とも言うべき、

\[A_x=vq_x+vp_{x}A_{x+1}\]

に気が付けば、早く解けるでしょう。

問題1(4)

解法:平成12年度問題1(II)の類題です。特に、『利息を付けないで』という条件から、\((IA)_{30:\overline{30|}}\)を用いることができるため、『利息を付ける』場合と比べて早く計算できるかもしれません。

問題1(5)

解法:死亡・就業不能脱退残存表における就業者の生存確率を求める問題です。記号に慣れていない方は、生存確率の右上に『aが1つ』と『aが2つ』の違いが曖昧になっているかもしれません。本問の場合、『aが1つ』ですので、スタート時点が『a(=就業者)』であれば良いため、『就業者のままで生存』+『就業不能者として生存』という2つの事象の合計になる点に注意が必要です。教科書(下巻)158ページ(13.1.20)を用いると良いでしょう。

問題1(6)

解法:教科書(下巻)180~181ページからの出題です。受験生の中には、『年払純保険料を求めよと言われても、予定死亡率が与えられていないじゃないか。』と疑いたくなった方もいらっしゃったかもしれませんが、教科書通りに解釈すれば、(本問の場合、予定災害入院発生率が年齢に依らないため)年払純保険料は予定死亡率に依らないことになります。

問題2(1)

解法:教科書(上巻)98ページ問題(3)の類題です。平成29年度問題2(1)のように、『副集団から主集団への異動』は考えないため、死亡・就業不能脱退残存表のモデルを理解されている方にとっては、とっつきやすかったかもしれません。ただし、連立方程式の式の数がかなり多くなりますので、1つの変数に着目して、落ち着いて変形していく必要があります。

問題2(2)

解法:累減定期保険と累加定期保険の一時払純保険料の差分を求める問題です。死亡保険金の支払が連続払のため、積分表示で値を求める必要があります。なお、与えられた条件のうち、\(\log{(A_{x:\overline{10|}}^{\hspace{8pt}1})}=-0.129548\)をどのように用いるかがカギとなるでしょう。

 

問題2(3)

解法:教科書(上巻)200ページ問題(2)(b)と同じ問題です。

特に、÷の部分で『マイナス』を表す必要がありますので、選択肢のうち、左側と真ん中の符号が異なるものが正解候補となりますので、これだけでも、10択が5択になります。

問題2(4)

解法:一時払養老保険の純保険料について、死力に定数を加えた場合に、その増加率を求める問題です。重要公式『\(A_{x:\overline{n|}}=1-d×\ddot{a}_{x:\overline{n|}}\)』を用いれば、生命年金現価の微分に帰着できるでしょう。

問題2(5)

解法:2つの保険種類とも、第5保険年度までは、(一時払)営業保険料または平準純保険料式責任準備金を死亡保険金とするため、第6保険年度始の生存者のみが、実質的な保険の対象となる点に気付けば、早く解答できるかもしれません。

死亡給付が責任準備金比例の場合、責任準備金の再帰式を用いるという常套手段も忘れずしたいですね。

問題2(6)

解法:生存確率(死亡確率)が一定、かつ、チルメル式責任準備金という条件から、平成22年度問題1(8)を思い出した受験生がいらっしゃったかもしれません。特に、過去法の責任準備金を用いる点は、当該問題を一度やっておかなければ、初見で思いつくのは至難の業でしょう。

問題2(7)

解法:保険料振替貸付と契約貸付を同時に考える問題です。特に、貸付の判定条件は、教科書(下巻)35ページ(9.2.1)の通り、貸付から1年後の状態で考える点は注意が必要です。本問の場合、年払純保険料と年払営業保険料が与えられていますが、保険料振替貸付の場合、営業保険料で考えることにも注意しましょう。過去問と同様に、純保険料と営業保険料の両方を与えて、受験生を混乱させる狙いがあるのかもしれません。

問題2(8)

解法:被保険者が4名の連生保険であるため、ベン図が書きづらく、また、同じ年齢の被保険者が複数含まれるため、重複順列(組合せ)を考える必要があるため、結構手ごわい問題です。教科書(下巻)90ページ(12.2.11)などを用いて、左辺を地道に変形していくのが早いかもしれません。

問題3(1)

解法:平成27年度問題2(6)の類題です。特に、およびについては、就業不能者が保険加入できない点に気付けば、t年後の就業不能者から加入時点の就業不能者のうち(就業不能者のままで)t年後も生存する者を除外すれば良いことにも気づくでしょう。

問題3(2)

解法:ファクラーの再帰式と絶対死亡率・絶対解約率の融合問題です。恐らく、生保数理の問題としては、当該融合は初めてだと思われます。特に、問題文の『死亡との発生順序は「死亡→解約」とする』という部分を、どのように解釈するかが、合否の分かれ目になるかもしれません。なお、第2次試験(生保1)の教科書『第2章解約および解約返戻金』の2-3および2-51ページと比較されると面白いかもしれません。

3.次回以降に向けて

いかがでしたか。今回の生保数理は、昨年度よりは難しいかったように思えますので、昨年よりも合格率は低いと予想されます。しかし、教科書の練習問題と同じ問題が出題されるなど、試験委員としては一定の配慮をされているようにも見えます。過去問はもちろんのこと、教科書の問題も一通りチェックしておくことが早期合格の秘訣の1つと言えるでしょう。

(ペンネーム:活用算方)

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