生保数理を初めて勉強する場合、養老保険の(営業)保険料、責任準備金、連生保険および就業不能保障保険(多重脱退表を含む)の順に学習を進めれば、主要な論点が一通り学習できると思います。
そして、上記の論点が習得できれば、その他の論点である、死亡法則(ゴムパーツの法則など)、契約変更(例.払済、延長など)、平均余命および定常状態などを学習すれば、ほぼ教科書の全体像が把握できるでしょう。
そこで、今回のコラムでは、上記のその他の論点のうち、定常状態について、試験対策にも役立つように分かり易く解説してみましょう。
1.定義
定常状態とは、定常社会、定常状態開集団など、幾つか呼称がありますが、時間の経過に係らず常に人口分布が不変であること、つまり、数式で表せば、任意の年齢x歳について、以下の関係式、
\(l_x = d_x + d_{x+1} + d_{x+2} + \cdots d_{\omega -1}\)
が常に成立する集団です。
なお、試験では、定義そのものよりも、後述の公式の方が出題可能性が高いと思われますので、これらの公式およびその導き方を中心に勉強されると良いでしょう。
2.試験によく出る公式(その1)
\(\stackrel{o}{e}_x=\frac{T_x}{l_x}\)
生保数理の教科書(上巻)75ページ(2.6.13)ですが、完全平均余命(\(\stackrel{o}{e}_x\))、x歳以上の総人口(\(T_x\))およびx歳の人口(\(l_x\))の間に成り立つ公式です。
このまま暗記しても良いのですが、公式を変形して、
\(T_x=l_x \times \stackrel{o}{e}_x\)
の形、すなわち、左辺の値(図形の面積)=右辺の値(縦×横)として覚えた方が忘れにくいかもしれません。
実際、x歳以上の総人口(\(T_x\))は、以下のような右下がりのグラフ(=生存数曲線)と横軸および縦軸で囲まれた面積に等しくなります。
(出典)『平成30年簡易生命表の概況』(厚生労働省)12ページ
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life18/dl/life18-15.pdf
さらに、上図のように『等積変形』、すなわち、面積が等しい別の図形に変形(上図の①と②の部分の面積が等しくなるように横軸の長さを調整)すれば、その横軸の長さが、完全平均余命となります。つまり、x歳の人口(\(l_x\))から出発して、誰も死なないような(仮想的な)社会を考えれば、(総人口は有限なので)ある時点で全員が死亡するため、その時点までの長さが完全平均余命となるわけです。
3.試験によく出る公式(その2)
\(x+\frac{T_x-T{x+n}-n \times l_{x+n}}{l_x-l{x+n}}\)
生保数理の教科書(上巻)76ページ(2.6.14)の公式ですが、x歳とx+n歳の間で死亡する人の平均死亡年齢を表します。この公式も上述の『完全平均余命』の公式の導き方である、『等積変形』を用いれば、簡単に証明できます。
実際、以下のような図を考えて、赤と青の三角形の『斜辺』部分が生存数曲線、すなわち、滑らかな右下がりの曲線と考えれば、
x歳以上の総人口(\(T_x\))=(『赤い三角形』+『白い長方形』+『青い三角形』) の面積
x+n歳以上の総人口(\(T_{x+n}\))=『青い三角形』の面積
『白い長方形』の面積=\(n \times l_x\)
となりますので、『赤い三角形』の面積=\(T_x-T_{x+n}-n \times l_x\) となります。
一方、『赤い三角形』の縦の長さは、上図から、\(l_x-l_{x+n}\)となるので、上記の『等積変形』を『赤い三角形』に適用すれば、
『赤い三角形』の面積÷『赤い三角形』の縦の長さ
つまり、\(\frac{T_x-T{x+n}-n \times l_{x+n}}{l_x-l{x+n}}\)が、x歳とx+n歳の間で死亡する人の平均生存年数を表すことになりますので、これに年齢x歳を加えた、\(x+\frac{T_x-T{x+n}-n \times l_{x+n}}{l_x-l{x+n}}\)が、x歳とx+n歳の間で死亡する人の平均死亡年齢となるわけです。
4.試験によく出る公式(その3)生存者の平均年齢
\(\frac{\int^{\infty}_{0}x \times l_{x}dx}{\int^{\infty}_{0}l_{x}dx}\)
平成29年度の問題1(2)などで出題されている上記の公式は、教科書では『公式』として明示的に紹介されていませんが、『総年齢』÷『総人口』で、生存者の平均年齢が計算されることは、直感的にも明らかだと思いますので、是非、この公式も覚えておくと良いでしょう。
いかがでしたか。定常状態という概念を、商品開発や決算等の実務で直接使う機会は多くないと思いますが、アクチュアリー試験科目である『生保数理』としては、頻出論点の1つですので、是非、マスターしておきたいところです。
ペンネーム:活用算方