今年2月に、『生保各社、代理店の販売手数料体系を見直し』という見出しの新聞記事
https://www.sankei.com/economy/news/190226/ecn1902260003-n1.html
が出ましたが、その後、複数の生命保険会社から、募集代理店手数料に関する方針等が、以下のとおり、相次いで発表されました。
日本生命 https://www.nissay.co.jp/kaisha/otsutaeshitai/customer/pdf/dairiten.pdf
第一生命 https://www.dai-ichi-life.co.jp/information/pdf/index_034.pdf
明治安田生命 https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/topics/pdf/fee_structure.pdf
メディケア生命 https://news.medicarelife.com/info/down2.php?attach_id=368&seq=1
ネオファースト生命 http://neofirst.co.jp/cms/info/pdf/1905100001.pdf
エヌエヌ生命 https://www.nnlife.co.jp/documents/10181/56311/%E3%81%8A%E5%AE%A2%E3%81%95%E3%81%BE%E6%9C%AC%E4%BD%8D%E3%81%AE%E6%A5%AD%E5%8B%99%E9%81%8B%E5%96%B6%E3%81%AB%E8%B3%87%E3%81%99%E3%82%8B%E5%8B%9F%E9%9B%86%E4%BB%A3%E7%90%86%E5%BA%97%E6%89%8B%E6%95%B0%E6%96%99%E4%BD%93%E7%B3%BB%E3%81%AE%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B9.pdf/
そこで、今回のコラムでは、代理店の販売手数料のあり方について、これまでの経緯等を踏まえて、今後の展望などを記してみましょう。
1.背景
平成30年9月に公表された、金融庁資料『変革期における金融サービスの向上にむけて』https://www.fsa.go.jp/news/30/For_Providing_Better_Financial_Services.pdf(103ページ)に『顧客本位の業務運営(本事務年度の方針)』というセクションがあり、
“代理店手数料については、その原資が保険契約者負担の保険料であることも踏まえ、
各社は、顧客に代理店手数料の合理性を適切に説明できるよう、取り組んでいくこ
とが望ましい。こうしたことから、各保険会社が各種の取組みについて前向きに取
り組むよう、深度ある対話を行う。”
との記述があります。
つまり、顧客に対して、代理店手数料の合理性が適切に説明できていないのでは、という課題を主務官庁が示したことが背景にあるものと思われます。
2.各社の対応
上述のとおり、各生命保険会社から、代理店手数料に対する考え方等が公開されておりますが、『量から質へ』という点が共通しているようです。
単に、新契約高の多寡だけではなく、契約の品質(例.保険事故発生率、継続率など)にもスポットを当てた手数料体系を導入することで、目先の利益のみを強く追及する代理店が自然淘汰されるような仕組みの構築を目指されているように思えます。
3.アクチュアリー試験の公式解答
アクチュアリー試験(生保1)では、平成21年度、平成24年度および平成29年度の問題3で、(金融機関)代理店チャネルに関する所見問題が出されています。これらの問題に対する公式解答のうち、手数料に関する記述は以下のとおりです。
《平成21年度》
保険会社の乗合いが多く、競争力のある手数料水準が必要。商品特性・募集の適切性の確保・適正な保険料水準などを考慮し、手数料水準、支払方法を決定。
《平成24年度》
代理店の危険選択や募集説明能力や解約・支払実績に応じたランク設定が実態に即したものになるよう留意。また、商品や単価水準に応じた収益性貢献度に応じた水準に設定するなどの工夫も。販売先行の過度な手数料設定にならないよう留意。
《平成29年度》
金融機関代理店では、新契約時に加え継続手数料を支払う手数料体系が一般的だが、予定新契約費の体系はこの手数料体系に沿う形とし、毎年その範囲で手数料を支払えるものにしておくことが望ましい。予定新契約費と手数料体系が一致していない場合、解約等による新契約費の未回収が発生しないよう、解約控除を設定。
4.今後の展望
沢山売れば、沢山手数料が入る仕組み自体は決しておかしくありませんが、予定新契約費枠を大幅に超過するような『インセンティブ手数料』は、公平な市場競争を歪めてしまう恐れがあるのも、また事実でしょう。
結局、保険契約の継続率をいかにして高めるのか、そして、適正な新契約費の回収スキームをいかにして構築していくのかという、保険ビジネスの原点に、いまこそ立ち戻る時期に来ているのかもしれません。
いかがでしたか。日銀のマイナス金利政策のおかげで、銀行業界はフィービジネスに進出せざるを得ず、銀行窓販による募集手数料は重要な収益源の1つとなっていると思われます。また、既存の乗合代理店との競争では、生命保険会社もより多くの募集手数料を提供しなければ、商品共有サイドとしての生き残りが図れない時代に突入しているかもしれません。
しかし、インシュアテックの台頭など、ITの技術をもっと活用すれば、より低廉でより良い保険商品を提供できる余地は十分あるものと思われますし、その結果、募集手数料の多寡に関係なく、真に、お客様にとって必要な保険商品が提供されるような世の中をいかにして構築していくかが、日本の保険業界における大きな課題であると言えるでしょう。
(ペンネーム:活用算方)