健康増進型保険の開発は、インシュアテック(InsurTech)の進歩と共に、令和時代の保険業界におけるトレンドとなることが予想されますが、その一方で、性善説に立った制度そのものにもやや限界感があるようにみえます。
例えば、スマートフォンで毎日の歩数を測定する場合、本当に被保険者自身が歩いたかどうかをどう判定するのか、かなり悩ましいところです。
実際、2018年度のアクチュアリー試験(生保1)問題3(2)②で、日常的な運動習慣などライフスタイルの相違を保険料率に反映させることについて、商品設計および価格設定においてアクチュリーとしての留意点を説明し、所見を述べよ、という問題が出題されました。
公式解答としては、
『日常的な運動習慣を代表するリスクファクターとして「1日の歩数」を採用した場合、例えばウェアラブル端末を用いて比較的簡便かつ安価に測定可能と考えられる。ただし、「なりすまし」といった概念もあることから信頼性を担保する工夫が必要。』
とのコメントが、『(ⅲ)測定可能性』として記載されています。
そこで、今回のコラムでは、「なりすまし」を可能な限り防ぐと同時に、保険契約者等にできるだけ負荷を掛けず、さらに、保険加入後の努力次第で、将来の営業保険料が下がる可能性を秘めた、健康増進型保険のアイデアをご紹介いたしましょう。
1.顔認証技術
空港などでパスポートを見せる入出国審査では、顔認証技術がかなり広まっています。
実際、羽田空港からの出国時も当該技術で簡単に手続きが済むようになっていまして、逆に、顔認証ではスタンプがパスポートに押されないため、従来型のスタンプが欲しい人用の専用窓口ができるくらいです。
では、顔認証技術はどこまで進歩しているのでしょうか?
実際、顔写真だけで、年齢・性別はもちろん、BMIや喫煙状況まで分かるようです。
例えば、LAPETUS社(https://www.lapetussolutions.com/)では、顔写真を用いた技術を進めており、保険料決定要因である年齢・性別・BMI等の情報が顔写真だけて判断できるため、生命保険加入手続きを大幅に簡素化することが十分予見されます。
画像処理技術の向上は、従来では想像もつかなかったレベルの恩恵をもたらすのかもしれませんね。
2.心拍数が歩数に代わる?
一方、(歩数ではなく)心拍数を用いて健康管理するアプローチも登場しています。
例えば、PAI Healthという会社(https://www.paihealth.com/)では、心拍数を測定することで、その人の健康状態を測定・改善するプログラムを準備しています。また、PAI スコアという指標を導入し、1週間単位で、当該スコアが100以上あれば健康状態が維持・改善するという効果が得られるようです。
特に、会社員などで平日に運動することが難しい場合でも、土日を上手く利用すれば、一週間トータルでの指標が改善することが期待されますので、忙しい現代人にとって、まさに、画期的なツールといえるかもしれません。
さらに、加入時点の健康状態が良くなかったとしても、多少割高な営業保険料で保険に加入でき、さらに加入後の自助努力で当該スコアを改善させれば、将来の営業保険料も下がり、自らも健康になるという、正に一石二鳥といえる仕組みが構築されます。
適度に心拍数を上げて、心臓を強くするというコンセプトは、健康医学の根源かもしれませんね。
3.究極の保険加入プロセス
上述の技術を組み合わせれば、例えば、以下のような保険加入プロセスが考えられるかもしれません。具体的には、(乗合)代理店や金融機関を訪問した際、入口で顔写真を自動的に撮影して瞬時に営業保険料を計算し、カウンター等に着席した頃には、営業保険料を含む保障設計書などの申込書類が完備するというものです。
もっとも、タブレット等を活用した申込プロセスであれば、わざわざ来店することも不要になるでしょうし、まさに、国民皆保険制度が民間レベルでも達成してしまう日が、すぐそこまで来ているのでしょうね。
いかがでしたか。インシュアテックをはじめ、様々なIT技術が驚異的なスピードで進化を遂げていますが、それらの技術が人間生活、特に、保険業界に豊富な果実をもたらすことを祈念しています。
(ペンネーム:活用算方)