2019年1月に、造幣局から、「貨幣セット(“平成31年”が刻印された1円から500円玉の6種類の硬貨に特別な表面加工を行ったもの)」が販売されましたが、いよいよ『平成』のカウントダウンを迎えようとしています。
『平成』という名前とは裏腹に、この30余年は、バブル崩壊や東日本大震災など、わが国にとって比類なき激動の時代でしたが、生命保険業界、特に、アクチュアリーにとっても、激動の時代であり、『昭和』の既成概念からいかに脱却していくかが問われた時代といっても過言ではないでしょう。
ふと、書斎の本棚にひっそりと佇んでいる『昭和生命保険史料』に目を向けると、「『平成』生命保険史料」が日の目を見る機会は果たして来るのだろうか・・・」という思いが過ぎったりもします。
そこで、今回のコラムでは、もし、自分が「『平成』生命保険史料」を編さんする場合、どんなテーマでどんな内容を後世に残そうと思うのか、について私見を述べてみましょう。
1.史料とは
『広辞苑(第5版)岩波書店』によれば、『史料』とは、
“歴史の研究または編纂に必要な文献・遺物。文書・日記・記録・金石文・伝承・建築・絵画・彫刻など。文字に書かれたものを「史料」、それ以外を広く含めて「資料」と表記することもある。”
と書かれています。なお、「金石文」とは、石碑などに刻された文字等のことです。
2.昭和生命保険史料の見出し
戦争による壊滅的な打撃を克服して高度経済成長までの時代を『昭和』として捉えているようです。なお、発行年月日と巻番号が必ずしも時系列になっていません。ひょっとすると、同じ巻で複数の発行年月日のものが存在するのかもしれません。
巻番号 見出し 発行年月日
第一巻 初期(1) 昭和45年12月15日
第二巻 初期(2) 昭和46年3月25日
第三巻 戦争期(1) 昭和47年3月30日
第四巻 戦争期(2) 昭和46年8月15日
第五巻 再建整備期 昭和48年3月15日
第六巻 回復期 昭和49年3月30日
第七巻 成長期 昭和50年9月30日
別巻(1) 業績統計(昭和19~23) 昭和49年1月25日
別巻(2) 参考資料目録 昭和50年3月15日
別巻(3) 総索引 昭和51年3月15日
ちなみに、最終発行年の昭和51年は、アクチュアリーにとって非常に重要な年で、
・戦後初めて予定利率の引き上げ(←戦後4%で推移した予定利率が簡易生命保険の後を追って5.5%にhttps://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/siryou/kinyu/dai2/f-20030512_d2sir/03.pdf)
・営業保険料の計算基準が年払から月払へ変更
・ζ(ゼータ):保険料月払のための予定集金費の導入
・ε(イプシロン):保険料払込免除率の導入
・δ(デルタ):営業保険料比例の予定新契約費(保険募集人に対する教育訓練費)の導入
・転換制度の導入
などが行われました。
また、大手生保による(定期付き)終身保険の発売も昭和56年(https://www.nissay.co.jp/kaisha/annai/gyoseki/pdf/2018/disc2018_P002_003.pdf)ですので、高金利下で(定期付)養老保険を中心とした販売拡大の時代であった昭和51年で、昭和生命保険史料が止まっていることは、ある意味、古き良き時代の『幸せのひととき』が、そこに詰まっているのかもしれません。
※ 一番左は『如水弘世助太郎翁』で、株式会社時代の日本生命から発行されました。なお、編纂兼発行代表者の守田常直氏は、アクチュアリー試験(保険数学Ⅰ・Ⅱ)の教科書『保険数学(上・下)』の著者です。
3.『平成』生命保険史料の“見出し”候補
独断と偏見で、「『平成』生命保険史料」の“見出し”を創造(想像)すれば、以下のような感じになるかもしれません。
巻番号 見出し 主な内容
第一巻 バブル崩壊 日経平均株価史上最高値(平成元年12月末)
第二巻 保険料引上げ 戦後初の予定利率引下げ(平成2年4月)
第三巻 大地震・テロ等の発生 兵庫県南部地震(平成7年1月)
地下鉄サリン事件(平成7年3月)
東日本大震災(平成23年3月)
第四巻 保険業法等の改正 保険3法(保険業法、保険募集の取締に関する法律、外国保険事業に関する法律)の統合(平成8年4月)
第五巻 生損保の相互参入 5年ごと利差配当保険(平成8年10月)
第六巻 保険会社の破綻 日産生命への業務停止命令(平成9年4月)
第七巻 相互会社の
株式会社化 大同生命(平成14年4月)
太陽生命(平成15年4月)
第一生命(平成22年4月)
第八巻 郵政民営化 日本郵政公社誕生(平成15年4月)
かんぽ生命営業開始(平成19年10月)
第九巻 IT技術の進歩 ネット生保参入(平成20年4月)
第十巻 デフレの進行 マイナス金利導入(平成28年2月)
4.アクチュアリーの視点
アクチュアリー第2次試験(専門科目)「保険2(生命保険)」の教科書「第1章 生命保険会計」(Ⅰ‐47ページ)に「昭和生命保険史料」が紹介されています。特に、主務官庁の奈倉氏の「営業保険料式責任準備金」はアクチュアリー必読の論文と言われており、生保数理の教科書(下巻)第10、11章に登場する「剰余の分析・還元」について、収入(安全割増)に支出(契約者配当(社員配当))を対応させることで、真の意味で「収支相等の原則」が成立するという氏の主張は、80年弱を経た今日でも全く色あせることのない理念であると思われます。
無配当保険の意義、有配当保険のメリット・デメリットなど、今一度、保険数理の基本哲学に立ち戻り、契約者保護とはどうあるべきか、公正・衡平な契約者配当とは何か、について、世代を超えたアクチュアリー同士の議論を再度、深める時期に来ているように思えます。
5.最後に
今年4月の入社式では、『平成の最後、新たな時代の幕開け』といったフレーズが生命保険会社社長から新入職員へのはなむけの言葉として披露されることでしょう。そして、新たな時代の生命保険をより一層価値あるものにしていくために、後世の業界人、特に、アクチュアリーの方々が困難に直面したとき、先人達の苦労と知恵を訪ね知ることで問題解決の糸口を見いだせる可能性も大いにあると思います。
まさに、『平成生命保険史料』が世に送り出されることを切に願うばかりです。
ペンネーム:活用算方