節税保険とアクチュアリー


『節税目的の経営者保険』について、販売停止とするニュースが最近駆け巡りましたが、2019年2月の生命保険協会長の定例会見でも、『外貨建て保険に対する苦情』と並んで、同保険に対するコメントがなされた模様です。

そこで、今回のコラムでは、『節税目的の経営者保険』について、これまでの税務通達の主な変遷、販売再開に向けてアクチュアリーとして取り得る対応策などを中心に、個人的見解を述べてみます。

なお、当コラムは、特定の会社および特定の保険商品を念頭においたものではない点を、予めお断りしておきます。

1.税務通達の主な変遷
国税庁ホームページ
(例.https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/870616/01.htm
https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/060428/01.htm
 によれば、経営者保険に関する主な税務通達は以下のような変遷を辿ってきました。

長期平準定期保険:昭和62年6月16日
逓増定期保険:平成8年7月4日、平成20年2月28日
長期傷害保険:平成18年4月28日

つまり、
≪ステップ1≫ 従前の税務通達の解釈で(有利な)節税商品を発売
≪ステップ2≫ 従前の税務通達の解釈のままでは課税上無理がある
≪ステップ3≫ 税務通達の改正・新設
 というステップが繰り返されてきました。

なお、アクチュアリー試験(生保数理)の勉強を兼ねて、税務の考え方なども学びたい人は、是非、以下のURLからダウンロードできる資料を一読されると良いでしょう。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/66/09/pdf/009.pdf

また、税務通達改正に当たっては、パブリックコメントに付される模様ですので、近々、http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?OBJCD=100410
で同コメントが公表されるものと思われます。

2.今回の論点
新聞報道(例.読売新聞https://www.yomiuri.co.jp/economy/20190213-OYT1T50347/
など)によれば、従前の税務通達で全額損金算入可能な保険について、解約返戻金割合(=解約返戻金÷既払込保険料累計額)が過度に大きいもの(例.読売新聞では同割合のピークが90%に達する販売パターンあり)が問題視され、同割合を50%以下にする案が浮上している模様です。

なお、『解約返戻金割合が50%』という点に関しては、長期傷害保険に関する税務照会文書(平成18年4月28日)において言及されています。
https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/060428/02.htm

一方、アクチュアリーの観点からは、少なくとも以下の3つの論点があるものと考えられます。

(1)保険会社向けの総合的な監督指針との関係
『保険会社向けの総合的な監督指針(平成30年2月金融庁)(以下「監督指針」という)』のⅡ-4-2-2 保険契約の募集上の留意点(17)③イ.(ウ)では、

“法人等の財テクなどを主たる目的とした契約又は当初から短期の中途解約を前提とした契約等の保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動を行わせないなど、保険商品のそれぞれの商品特性に応じ、その本来の目的に沿った利用が行われるための適切な募集活動に対する措置”と規定されています。もちろん、何を持って『財テク』と見做すのか、あるいは、何を持って『短期の中途解約を前提』と見做すのか、という判断は非常に悩ましいところですが、少なくとも、『保険本来の趣旨を逸脱しない』ことが、生命保険会社に求められていることは言うまでもありません。

(2)商品の仕組み
認可を得ている以上は主務官庁が納得する正当な理由があるはずですが、一方で、同じ仕組みが個人向けの保険に適用されていないと目されることを勘案すれば、やはり、解約返戻金を引き上げる効果を(主な)目的として、保険期間の前半では災害死亡のみを死亡保険金額の支払事由とした、と評価されてもやむを得ないと考えられます。
もっとも、個人・法人を問わず、生命保険の対象は『人』である以上、何らかの『選択効果』が経過の浅い期間では認められるはずで、その意味で、保険期間の前半では災害死亡のみあれば十分であるという解釈ができるかもしれません。

(3)付加保険料体系
あくまでも噂ですが、解約返戻金割合を高めるために責任準備金(保険料積立金)の計算に付加保険料(特に、予定維持費率)を含めるように工夫をしたものがある模様です。もちろん、真偽のほどは不明ですが。

一方、監督指針のⅣ-5-1 保険料(6)では、
“付加保険料(事業費の割増引を含む。)の設定について、係数によらずに定性的な表現で記載するときは以下の条件を満たしているか。
① 保険種類間の公平性が損なわれておらず、事業費の支出見込額に対して
妥当であるなど適切なレベルとすることを明確にしているか。(以下略)”
と規定されています。

仮に、この噂が正しいとすれば、到達年齢または経過年数によって付加保険料の水準を変える場合、特に、解約返戻金割合を高めるために、付加保険料を『逓増型』とする場合、上述の①を満たすことを客観的に示す必要があります。

3.販売再開に向けてアクチュアリーとして取り得る対応策
(1)予定解約率の導入
『解約返戻金割合が50%』という点が税務取扱いの基準となりそうですので、個人保険と同様に、法人向け保険についても、予定解約率を導入して、解約返戻金割合を調整することが考えられます。
逆に、予定解約率を導入しない場合、普通保険約款などで解約返戻金の割合を頭打ちすることは、過大な『解約控除』を徴収することになりかねず、許容し難い可能性があります。

(2)付加保険料の見直し
平成18年4月から付加保険料は保険料及び責任準備金の算出方法書の認可対象から除外され、その一方で、事業費モニタリングを用いて、事後的に付加保険料水準が検証されることとなりました。
事業費モニタリングの導入から既に10年以上経過した今日、今回の議論を契機として、今一度、監督指針の趣旨に則り、付加保険料体系・水準などを再整理して、生命保険会社の事業費支出実態などに応じた付加保険料とすることが考えられます。

(3)保障内容の見直し
経営者にとって本当に必要な保障とは何かを最優先に考え、解約返戻金の水準はあくまでも付随的なものであることを主眼として、保障内容を十分に吟味することが必要かもしれません。

いかがでしたか。アクチュアリーとして商品開発等に臨む場合、特に、法人向け商品の開発にあたっては、今後ますます、税務通達との関係に注意する必要がありそうです。特に、現行の通達だけでなく、現在開発中の商品を世に送り出した場合、どのような影響があるのかという将来を見据えた対応が、より一層求められている時代だと言えるでしょう。

ペンネーム:活用算方

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