アクチュアリー試験講評(2018年度 生保数理 編)補足


2018年12月14日(金)のコラム(アクチュアリー試験講評(2018年度 生保数理 編))で、今年度のアクチュアリー試験(生保数理)の講評を行いましたが、特に、問題3(2)については、その後、気付いた点が幾つか出てきました。

そこで、今回のコラムでは、講評の補足として、『過去法の責任準備金』に焦点を当てて、気付いた点を列挙してみますので、受験生の一助となれば幸いです。
 

1.責任準備金を求める5つのテクニック

 頻出パターンである『保険料年払全期払込、死亡保険金期末払の養老保険』の責任準備金を求める主なテクニックは、以下の5つに分類されます。
(1)重要公式 \(_tV_{x:\overline{\ n\ |}}=1-\frac{\ddot{a}_{x+t:\overline{\ n-t\ |}}}{\ddot{a}_x:\overline{\ n\ |}}\ \ (0 \leq t \leq n)\)
(2)責任準備金の再帰式
(3)将来法
(4)Thiele(ティーレ)の微分方程式
(5)過去法
 上記のテクニックは、ほぼ出題頻度の順番に並んでいますので、特に、生保数理をこれから勉強される方は、上記の順番で勉強を進めると良いでしょう。

2.過去法を用いる問題の見極めテクニック

 1.で列挙したテクニックのうち、Thiele(ティーレ)の微分方程式は、3つの条件(保険料が一時払、死亡保険金が即時払、死亡保険金が責任準備金比例)が成立する場合に利用できます。この3つの条件が問題文に与えられていれば、このテクニックを用いると見極めできます。
 さらに、過去法についても、問題文に、2つの条件(\({\large \begin{smallmatrix} 1 & \, & 1 \\ x & , & \overline{\ n\ |} \end{smallmatrix}}\) )、つまり、加入年齢xの上に1があり、かつ、保険期間(nなど)の上に1があるような条件が与えられれば、過去法の責任準備金を用いると見極めできます。その際、教科書(上巻)183ページ問題(3)(4)の公式を利用すれば早く解けます。
 もちろん、2018年度(生保数理)問題3(2)のように、問題文に『過去法により平準純保険料式責任準備金を導出』というようなあれば、過去法を用いるしかありませんが。

3.過去法は、『過去から現在に向かって』なのか?『過去の期間で』なのか?

 教科書(上巻)177ページの3~4行目の式をみれば、過去法とは、『過去から現在に向かって』計算する、つまり、『終価』を考えることとなります。ところが、同ページの(5.3.1)をみると、分子が、加入からt年経過までの『過去の期間で』計算されていることがお分かりいただけると思います。
 一方で、責任準備金の計算時点は、あくまでも到達年齢『x+t歳』となります。実際、同ページの(5.3.1)をみると、分母が(加入年齢『x歳』ではなく)到達年齢『x+t歳』となっています。
 つまり、将来法か過去法かの違いは、『分母』の添え字が加入年齢か到達年齢かという違いであるとも言えます。もちろん、将来法と比較して、収入と支出の順序が逆、つまり、『収入終価』から『支出終価』を引いたものです。
 なお、確定年金の公式(例.教科書(上巻)16ページ(1.6.1)~(1.6.4)など)をご覧いただければ、確定年金のける現価と終価の違いは、『分子』にあることに気付くと思います。したがって、現価と終価の違いを表示する『場所』が『分子』か『分母』かという点は、確定年金と生命年金の違いの一つと言えそうです。

4.2018年度(生保数理)問題3(2)の条件(Ⅰ)

 2018年12月14日(金)のコラムで示したとおり、本問は、教科書(上巻)201ページ問題(7)の類題ですが、それよりも、昭和45年度(保険数学Ⅰ)問題6の類題(というか同じ問題!)と言うべきかもしれません。
 しかし、両者の問題を比較した場合、ある前提が異なる点に気付かれると思います。それは、初年度末責任準備金が正値かどうかという点です。実際、2018年度(生保数理)問題3(2)では、『初年度末責任準備金が正値』という前提がないため、条件(Ⅰ)が成立しても、以下のような『反例』が見つかります。

 特に、穴埋め問題の について、条件(Ⅰ)のみから一意に決まるように問題文が読めるのですが、より厳密には、条件(Ⅰ)かつ選択肢から、 が一意に決まるようにも思えます。
 いずれにせよ、アクチュアリー会から公表される公式解答(昨年は3月末頃に同会ホームページで公表)が待ち遠しいですね。

5.平成27年度(年金数理人会試験)基礎数理Ⅱ問題1(2)

 過去法に関連して、平成27年度(年金数理人会試験)基礎数理Ⅱ問題1(2)では、連続払確定年金の責任準備金(保険料積立金)が最大となる経過年数を求める問題ですが、高校の数学で学んだ、微分係数がゼロ、つまり、極値を求める問題に帰着
 また、本問の場合、アクチュアリーの大先輩である、山内正憲氏が執筆された、『保険数学(森北出版)』

の214ページにある『前観法』、『後観法』の公式を用いれば、比較的簡単に解けます。なお、『前観法』、『後観法』は、生保数理の教科書に登場する『将来法』、『過去法』に対応するもので、具体的には、以下の公式となります。

前観法 ⇒ \(_{t}\overline{V} = \frac{1}{_{t}p_x v^t}[{\int_o^t} _{t}p_x v^t (\overline{P}_{t} – u_{x+t} U_{t}) dt]\)
後観法 ⇒ \(_{t}\overline{V} = \frac{1}{_{t}p_x v^t}[{\int_t^n} _{t}p_x v^t (u_{x+t} U_{t} – \overline{P}_{t}) dt + _{n}p_x v^n T]\)

 いかがでしたか。この機会に、是非、過去法の責任準備金に慣れ親しんでいただければ幸甚に存じます。(ペンネーム:活用算方)

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