**プロフィール**
黒田 英樹さん
JPアクチュアリーコンサルティング株式会社 代表取締役社長。年金数理人・日本アクチュアリー会正会員。1985年慶應義塾大学理工学部数理科学科を卒業後、大和銀行に入行。年金信託部において一貫して適格退職年金・厚生年金基金の数理業務を担当し、数多くの年金制度設計や指定年金数理人業務を行う。2000年プライスウォーターハウス・クーパーズGHRSに移籍し、年金コンサルティングを手がけた後、JPアクチュアリーコンサルティングを設立し現在に至る。
―アクチュアリーを目指したきっかけとは?
大学時代にアクチュアリーに関する講座に出て、初めて「アクチュアリー」という職種があることを知りました。それまで、数理科を卒業したあとの進路には、IT関連か、数学の教員か…という選択肢しかないと思っていた。金融機関で数学を使う仕事があるんだ! カッコよさそう!と思い銀行に入行しました。当初は、アクチュアリーになってもいいし、なれなければ銀行員として生きていこうくらいの軽い気持ちでしたね。
―正会員試験のための勉強と仕事はどう両立させましたか?
入行1年目は、新人は全員営業店配属だったので、勉強を始めたのは、年金信託部に異動した2年目からでした。「アクチュアリー正会員にならないと将来はない」というプレッシャーから、仕事を終えた平日夜と、土日に勉強する生活がスタート。毎年1科目ずつ受験していったので、丸8年かけて正会員になりました。
試験の数カ月前になると、勉強に集中するために定時退社が認められていたので、両立がしやすい環境は整っていました。「年金数理」など、科目によっては実務とリンクしているものもあり、勉強と仕事の相乗効果もありましたね。
―キャリアを通じて、一貫して年金制度設計に長く関わっていらっしゃいます。年金アクチュアリーの面白さは何ですか?
年金は、将来みんなが必要なものです。「年金があってよかった」と思わない人はいません。“ゆくゆくは必ず喜ばれるもの”に携わっていることが、年金を手がける意義であり、やりがいにつながっていると思います。
金融機関は、お金を預かり、運用商品を売るビジネスなので、「この商品はお客様のためにならない」と思いながら売らざるを得ないこともあるでしょう。そういったジレンマがないところも、年金を手がける魅力の一つです。
―日系の銀行から、外資系コンサルティングへ転職しました。その理由とは?
中立的な立場で、報酬全体を幅広く手がけたいと思ったからです。
年金制度は、報酬制度の一つにすぎません。全体報酬の中で、退職金として払うのか、給与で払うのか、という選択肢の中に年金がある。しかし、金融機関では、お客様の個社のニーズにかかわらず「年金」だけしか扱えません。もっと1社1社に見合った提案をしていきたいと考え、金融機関とは一定の距離があるコンサルティング会社へ移りました。
実際に運用商品とのしがらみがなくなったことで、例えば確定拠出型年金を提案するなど、会社の特性に応じたコンサルテーションができるようになりました。
―その経験を経て、JPアクチュアリーコンサルティングを設立しました。アクチュアリー兼経営者という道を選んだ理由とは?
独立するつもりは全然なかったんですけどね(笑)。自分の意思で自由にチャレンジできる環境に身を置きたいなと、私を含めてアクチュアリー3人で立ち上げました。少人数のプロ集団ということで、経営業務、マネジメント業務にパワーが割かれることがなかったのも、会社を続けてこられている一因だと思います。
―JPアクチュアリーコンサルティングの強みは何ですか?
代表がアクチュアリーであり、細かな数字やロジックを理解しているため、個社に対する提案の判断が早いところでしょうか。また、私自身がコンサルタントとして、お客様の立場になって「分かりやすく説明する」ことを強みとし、大切にしてきました。分析、説明、提案まで一気通貫でできる点は、お客様から信頼を得られている理由かもしれません。
当社は小規模ゆえ、他事業との関係や、外資系コンサルティング会社のような本国との関係といったしがらみがありません。お客様に選ばれるよう努力する大変さはありますが、金融機関との提携を進めたり、年金制度に関するセミナーを開催したりと、やりたいと思ったことに挑戦できるフィールドがある。自分で考え、行動することに面白さを感じる方に、当社は合っているのではないかと思います。
―今後、挑戦していきたいことは何ですか?
IT、とくにAI技術との融合は今後10年以内にどんどん進んでいくだろうと思っています。数理計算そのものはAIが行い、アクチュアリーはそれを確認し、さらにお客様への説明や提案につなげていくことが、メイン業務になっていくと思います。
当社においても、AI技術を持った方の採用を進め、年金コンサルティング業務における業務革新を図っていきたいです。アクチュアリーの軸足がコンサルティングになっていく中、高い対人折衝能力、提案力と実行力に長けた人材の採用も進めていきたいですね。
―これからのアクチュアリーに求められるものは何だと思いますか?
アクチュアリーの正会員試験に合格するのを大前提として、ITスキル、とくにAIに関するスキルをつけていけば、さまざまな環境を選んで活躍できるのではないでしょうか。
また、数年前と比較しても、外国人のお客様と折衝する機会はどんどん増えています。日系企業が突如、外資企業になることも今後は多くなるでしょうから、英語力をつけておくに越したことはないと思います。